「こんな物が欲しい」「こうだったら良いのに」をかたちにするのが「INDUSTRIA★」。物作り経験豊かな国内のデザイナー、職人、スタッフが結集して日本の物作りをしていきます。国内生産ならではの完成形を目指します。ご意見ご要望お待ちしています。

COLUMN

2017/12/08
by 半杭 誠一郎

内田ユキオ 「全ては風の中に dust in the wind

内田ユキオ
写真家。新潟県両津市(現在の佐渡市)出身。公務員を経てフリーに。
タレントなどの撮影のかたわら、スナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。著書には「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」(ともにエイ出版社)などがある。現在は写真教室の講師も務める。
自称「最後の文系写真家」。データや性能だけではないカメラの魅力にこだわりを持つ。

#04 美しく育つカメラバッグ

2018/01/25
by 半杭 誠一郎

内田ユキオ 連載コラム 『全ては風の中に』 〜 dust in the wind 〜

#04
美しく育つカメラバッグ

どんな機材でも、どこに出かけるにも、何を着ていても、ひとつのカメラバッグしか使わないという人がどれくらいいるだろう? 想像するのが難しい。
ファッショナブルなミュージシャンと言われて、まず名前が挙がるポール・ウェラーは、「着るものに迷うことはない、好きなものしか持っていないから」というようなことを答えていた。
カメラバッグもそうあれたらいいのにと思う。でも実際には機材の量や、撮影に向かう場所によって使い分けることになる。

それでも愛用のバッグとして真っ先に挙げられるものはある。ぼくのスタイルであるボディ一台とレンズ二本くらい入れるのにちょうどよく、普段着ならまず間違いなくフィットして、何より大切なことだが「長く使える」ことが約束されている。
それは壊れたら新品が買えるということではなく、リペアしてもらえることも重要だが、良い素材を使って丁寧に仕上げてあるということだ。”味が出る”と言われることが多いけれど、誤解を恐れずに言うなら「買ったその日が一番かっこ悪いバッグ」と言っていい。どの部分がこすれるか、どんなふうに手入れをするか、機材をどう詰めるかは、人それぞれだ。それによってカメラバッグは、その人だけのものに育っていく。

丈夫さで言えばバリスティックナイロンはすごいが、残念なことに味は出ない。一年後も新品みたいだ。
愛用と呼ぶなら、やはり革とコットンが最強だ。革は重く、コットンは水に弱いが、もちろんそれはケアしてある。革を使う部分は吟味され、コットンを加工することで質感を損ねず水に強くしてある。
コットン特有の”アタリ”と呼ばれる擦れた部分の色落ちと、使い込んだ革とのコントラストは抜群に美しい。そんなふうに育ったカメラバッグを持っている姿を見ると、きっといい写真を撮るだろうなと思わせる。テクニカルな上手さはなくても優しい写真を撮るはずだ。良いものを長く使う気持ちは、とくにスナップ写真のまなざしに通じるところがある。

インダストリアのバッグを見て、その質の高さを感じたいと思ったら、革を縫い合わせた角の部分を見て欲しい。肉厚な革を使えば縫うのは難しく、当然だけれど角が作れない。そこが膨らんでしまっているバッグをよく見る。ビシっと角のエッジが立っているのに革の手触りが均質で、重いものを入れても形が崩れない。
数年くらいして、ふと新品と見比べたとき、交換してくれると言われても遠慮したくなるくらい、自分のバッグに思い入れが加わっているはずだ。
デジタルカメラは極めれば道具だ。設定さえ引き継げるなら新品がいちばんいい。でもそれを入れておくカメラバッグは育つのだ。

内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)出身。公務員を経てフリーに。
タレントなどの撮影のかたわら、スナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。著書には「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」(ともにエイ出版社)などがある。現在は写真教室の講師も務める。
自称「最後の文系写真家」。データや性能だけではないカメラの魅力にこだわりを持つ。

#03 カメラバッグは夕方に選べ

2017/12/01
by 半杭 誠一郎

内田ユキオ 連載コラム 『全ては風の中に』 〜 dust in the wind 〜

#03
カメラバッグは夕方に選べ

革靴は夕方に買いに行くのがいい、というのは定説だ。足はむくんで大きくなっていくから、午前中にフィティングをするとあとで痛い思いをする。
でもJ.M.ウエストンのような店に入って、ローファーを選んでもらうと、自分が思っているよりひとつ下のサイズを選ばれることが多い。足が痛くて履けないと言うと、しばらく我慢すれば最上のフィットが得られるのだと言う。高いものだから失敗したくないけれど、伝統を信じるしかない。
初めのうちは靴を履くのが憂鬱になる。でも高い買い物だったから我慢して履く。かたちは美しいし革質は最高なのだ。やがて痛みが消えるころ、「革靴が足にフィットするというのはこういうことなのか!」と驚くような感覚を得られる。

はじめてカメラバッグを買いに行くとき、先輩に付き添ってもらったら、「ちょうどいいと思うサイズよりひとつ大きなものを選ぶといいよ」と言われた。「必要なものってあとから増えるからね。ストロボとか交換レンズとか」
そのアドバイスは正しかった。小さなバッグに機材をぎゅうぎゅうに詰めると取り出しづらくなる。余裕のある大きめのサイズのほうがいい。靴は夕方に選べというのと同じことだ。
でも今、もしぼくがカメラバッグを買いに行く人にアドバイスするなら、「写真がうまくなりたかったら、ちょうどいいと思うサイズよりひとつ小さなものを選ぶといい」と言う。

小さなバッグを持つといいことがふたつある。ひとつめは、しまうのが面倒だからカメラをいつも首から下げるようになって、チャンスを逃さなくなること。もうひとつは、少ない機材でどう撮ろうかと工夫をするから、安易に交換レンズなどに頼ることなく、写真に勢いのようなものが生まれること。もちろんバッグが小さいおかげでフットワークも良くなる。軽いから歩き疲れない。
この写真のバッグを初めて使ったとき、小さすぎるんじゃないかと思った。でもいまでは最上のフィットを感じる。いちど洗いをかけて馴染ませたので、革とキャンバスにコントラストが生まれた。カメラと同じライティングをして美しく写るバッグを初めて見たような気がする。いい素材を選んでいるからだと思う。

内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)出身。公務員を経てフリーに。
タレントなどの撮影のかたわら、スナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。著書には「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」(ともにエイ出版社)などがある。現在は写真教室の講師も務める。
自称「最後の文系写真家」。データや性能だけではないカメラの魅力にこだわりを持つ。

#02 プロストが苦手なプロフェッショナルたち

2017/11/01
by 半杭 誠一郎

内田ユキオ 連載コラム 『全ては風の中に』 〜 dust in the wind 〜

#02
プロストが苦手なプロフェッショナルたち

ギターを始めたとき、いちばん最初にやったのはコードを覚えることではなく、鏡に向かってストラップの長さを合わせることだった。憧れのギタリストと同じ高さでギターを構えたかったからだ。ロックのギタリストなら、ほとんどの人が同じ経験を持っているようだ。

カメラのストラップもいろんなものを試してきた。太さや長さ、材質、こだわり始めるときりがない。 デジタルカメラは美しく年をとらない。フィルム時代との決定的な違いだ。だからストラップは経年変化が楽しめるものがいい。そう考えると革以外には考えられない。

カメラは防湿庫にしまったりしない。とくによく使うカメラは、ストラップで棚に吊るしておく。出番を待っているようで見ていて嬉しくなる。 革の輝きが鈍くなりワントーン落ちて、手触りが柔らかくなったのを感じたら、カメラの使いこなしもひとつステップを登った気がする。

良質な革のストラップに特別な手入れはいらない。とにかく使うこと。カメラと同じだ。 どれくらいそのカメラを使い込んだか、ストラップが語ってくれる。

内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)出身。公務員を経てフリーに。
タレントなどの撮影のかたわら、スナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。著書には「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」(ともにエイ出版社)などがある。現在は写真教室の講師も務める。
自称「最後の文系写真家」。データや性能だけではないカメラの魅力にこだわりを持つ。

#01 ジェネレーションXのカメラバッグ

2017/10/01
by 半杭 誠一郎

内田ユキオ 連載コラム 『全ては風の中に』 〜 dust in the wind 〜

#01
ジェネレーションXのカメラバッグ

絶好の写真日和に、コートと中に着るセーターを選び、お気に入りのデニムを履く。長く歩いても疲れない靴にして、さてカメラを持とう・・・と考えたとき、いいバッグがない。カメラだけで持ったときには格好よくても、カメラバッグを加えるとバランスが崩れてしまう。 よく「男の服にはバリエーションが少ない」と言われる。たとえば履くものに限って考えてみると、チノパン、デニム、カーゴパンツ、ウールスラックスなど、どれも形は同じだ。だからディテールにこだわるしかない。それなのにカメラバッグの選択肢は驚くほど少ない。

これまでいくつもバッグを買ってきた。カメラより多いくらいだ。それでも満足できたことがない。 どんな機材も入って、でも軽くて、着る服を選ばず、丈夫で、といった夢のカメラバッグの話をしているのではない。交換レンズと同じだ。いろんなものが撮れるズームは、突き詰めていけば単焦点には勝てない。楽しさでも写りでも。A4の書類が収まり、大口径のズームが縦に入って、ストラップが太く、などと考えるなら昔からあるバッグでいい。 愛用のカメラと交換レンズを一本、それくらいを入れて気分良く歩けるバッグが欲しい。

見た目が良ければ機能はどうでもいいと言っているわけではない。肩から提げた状態でも身体に密着していてカメラを抜きやすく、パスポートやSDカードなどを入れる小さなポケットが必要で、ぶつけたときに機材を守ってくれるクッション性も求められる。 質の高い革やキャンバスの素材で、使い込んでいくことが味になるといいし、ひと目でカメラバッグだとわからないほうがいい。 それで写真を撮り歩き、カフェに入って休もうとしたとき、その空間に馴染んでくれたら理想だ。いちばん大事なことかもしれない。

カメラバッグはカメラを持ち運ぶためだけの道具ではない。 カメラと服のあいだに入り、街とカメラのあいだに入り、撮影と日常のあいだに入り、それらを繋いでくれるものだから。

内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)出身。公務員を経てフリーに。
タレントなどの撮影のかたわら、スナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。著書には「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」(ともにエイ出版社)などがある。現在は写真教室の講師も務める。
自称「最後の文系写真家」。データや性能だけではないカメラの魅力にこだわりを持つ。