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#02 ひねくれ者の髪は夏の香り

2021/06/18
by 半杭 誠一郎

小学2年生でショートカットにしてからというもの、それまで直毛だった私の髪は性格とともに捻じ曲がるようになってしまい、梅雨時期は特に扱いに苦労する。うねりが強くなるくらいなら別に良いのだが、表面の髪がちりちりと綿埃のように丸まってしまうのがどうにも我慢ならず、ここ数年は6月になるとストレートパーマをかけるのが恒例となった。

さて、今年もその困った季節がやってきたのである。四の五の言わずストレートにすれば髪の扱いが格段に楽になるのは分かっているのだが、自分の個性を否定するような気がして毎年必ず二の足を踏んでしまうのだ。今年も一度美容院を予約したものの、キャンセルした。そしてこれもまた例年のようにくせ毛専用のヘアケア商品を購入。毎年あらゆるメーカーの商品を検討し、これだ思ったものを試しているのだが、残念ながら潮を含んだ南風と湿度90%の空気に敵うアイテムには未だ出会ったことがない。今回の精鋭はこの髪をどうにか収めてくれるのだろうか。

早速出掛けにシャンプーしてみると何やら懐かしい香り。ああそうだ、夏になると夕飯のあとに祖母が出してくれた半分に切ったグレープフルーツ、それにグラニュー糖をひと匙かけて専用のぎざぎざのスプーンでざくざく切っていくときの香りだ。真っ黒に焼けた右腕とグレープフルーツの白い中果皮のコントラストを思い出す。

次はトリートメントである。ふむ、これは紫陽花の葉と薔薇の花を入り混ぜたような香り。脳裏に幼少期に過ごした家の庭が現れる。6月は紫陽花に鉄線、藤の花に山椒の葉、祖父が毎日せっせと手入れをしていた庭は、季節ごとに美しい花々を咲かせてくれた。

バスルームでひとしきり夏の香りを満喫し、最後にアウトバストリートメントを期待しつつ手に取り出して嗅いでみる。なるほどこうきたか、とにんまりする。ファンタグレープの香りだった。いちいち記憶の奥底をつついてくる香りが憎い。

それなりに整った髪を手で撫でつつ、まだ私はストレートパーマを掛けるか否か迷っていた。そう、まだ梅雨入りしていないのだった。どうやら曇天時の湿気には耐えられそうだが、雨が降り出したらどうなるか。こんなときに限って雨が降らないのは何故だろう。帰りの電車の中、うねり始めた髪を窓越しに確認して美容院の予約を入れた。結局こうなるのだ。でも今年は懐かしい香りとともに夏を過ごせるのだから良いではないか、と曇り空を恨めしく眺めた。

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