写真家 南雲暁彦 IND-300を使う
風格を求めて
フォトグラファーを志した頃に憧れたアメリカ製のプロ用カメラバッグ。あの独特の異物感、見たことのないデザイン、硬い素材、凄まじく高い価格。そういう一瞬近づくのをためらうようなハードルを持ったもの、そういう物が知らない世界の存在を暗示し、また憧れの対象だった。一眼レフの頭の出っ張りもそうだ、コンパクトカメラにはない近づき難さがあり、そこにチャレンジする意味や先に広がっている写真の荒野を感じた。 今、そのような無骨なアメリカ製バックは軒並み生産を中止、ユーザーフレンドリーで安価な中国製となり、当時の風格を全く失ってしまった。そうだ、失ったものは風格なのだ。
IND-300 このカメラバッグを初めて見たときに感じたものは、若い頃に感じたあの「異物感」に似たものだった。サイズは小ぶりながらその存在感は強い。ざっくりして張りの強そうな生地と、見るからに丈夫そうでかつ品のあるレザーのコンビネーション。そして高さを抑え前後に段差のある不思議なデザイン。 パッと見たところ機能性を全く感じない、、、、高い、なのに、なんだこの惹かれる感じは、。。
デュマンフレーバー×グローブレザー×半杭誠一郎
若き頃憧れ、幾つくも手に入れたバッグは防弾チョッキに使われる生地を使用していた。
このIND-300に使われている生地は消防ホースの内側に使われる摩擦強度に優れた素材だという、レザーはグローブレザー、そのコンビネーションがこのバッグを構成している。そしてその素材を選択したデザイナー半杭誠一郎氏の拘りが宿っているMade in japan !
僕が感じたのはそれらが合わさって生み出された「風格」だった。 この感覚を得たとき、もう何も迷うこと無く最前線への投入を決めた。
最前線で求められる装備、それはその存在を忘れ機能に徹すること
いいスピーカーは音を奏で出すとその存在は消え、純粋に音像だけを感じるという。カメラもそうだ、いいカメラは撮影に没頭させてくれる。僕の道具選びはそういう観点でも行なっていて、ゴアテックスのアウターもシューズも本気を出して被写体にいどむ時にはその存在を消し、一体化して自分の一部となる。そして何事も無く撮影が終わった時、「この道具はすごい、」ということになるだ。
いきなり極寒の氷の世界に連れて行ったにも関わらず、IND-300はまずその点で良い結果を出してくれた。パラフィン加工された高強度なキャンパス生地は氷や岩の攻撃を退け、水を弾き、体の幅からはみ出ないことでどんな姿勢にでも追従し、高さが抑えられているがゆえに手を突っ込みやすい。
一方、身につけるに当たってやはりデザインやブランドなど好みのモノを選ぶのも重要で、気に入らないとまず身につけ無くなる。
その「好み」と「機能」の二つを同時に満たすモノに備わっているのが僕が感じる「風格」だと思っている。これは自身の経験やセンスに基づくものなのでなんとも数値化できるようなものではないのだが、、道具選びにはそれなりに自信があって全て実践に基づいた評価ができるつもりでいる。撮影で世界を300都市も回ると色々な状況に置かれる事になり、その中で道具の果たす役割も色々なのだが、様々なものを試しながら磨き上げた道具選びの審美眼は今の僕の武器と言っても良いだろう。
IND-300はアウトドアの格好に身を包んで凍った湖の上でも、ラフな格好でストリートを歩きながらでも、快適にカッコよく使えたと思う。まあこれでもイイかな、では無く。これイイよ!という感じだった。
IND-300はシンプルなカメラバッグだ、このガジェットだらけの時代に生まれたものとしては異例なほどシンプルである。通勤に使うものではないと思うが、カメラを入れて歩く、出して撮影する、しまう。という事においては非常に質の高い時間を作ってくれる。
持っていて気分がよく(カッコイイ)カメラをしっかり保護し(丈夫)余計なものがないので出し入れもしやすい(機能的)
触り心地やエージングで表情が変わっていく様も気に入っている。
しかも後追いでインナーケースも発売された。これで少しこの時代でのニーズにもあってくる(笑)スマホのすっぽり収まる場所もできたし、バッグの中身がすぐぐちゃぐちゃになる人はこれでかなり整理が効く。
ミラーレスの使用を主眼に設計されたというがメインコンパートメントは容量もそれなりにあり、私の24-105mmF4LⅡを付けた5DMarkⅣもしっかり飲み込んでくれ、さらにもう一本短いレンズなら入る。
カメラバッグはプロにとっては大事な道具だが、スタイルでもあり、ファッションでもある。このカバンはそれを両立してくれる数少ない道具の一つだと思う。
Photographer/Movie Director
凸版印刷 TIC クリエイティブ本部 フォトクリエイティブ部
南雲 暁彦 Akihiko Nagumo
世界遺産を中心に世界約300都市での撮影実績を持つ 知的財産管理技能士 DTPエキスパート 日本広告写真家協会(APA)会員
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。
1993年、日本大学芸術学部写真学科卒業後、凸版印刷株式会社入社。
トッパンアイデアセンターフォトクリエイティブ所属。チーフフォトグラファー。
コマーシャルフォトを中心に映像制作、セミナー講師なども行う。
APA広告年鑑入選、全国カタログ・ポスター展グランプリ
イタリアAdesign award プラチナなど受賞多数。
2014 グラフィックトライアル2014「響」クリエイター
2015 全国キヤノンギャラリーにて写真展「BRASIL」開催
2017 Graphic Trial Hong Kong 参加